We shall overcome ☆沖縄からのグローカルヒストリー☆

琉球大学西洋近現代史研究室を担当する池上大祐の教育・研究活動ブログです。アメリカと太平洋島嶼地域との関係について、(脱)・(新)・(核の)植民地主義の観点から研究しています。また、沖縄で西洋史やグローカルヒストリーを学ぶ意義・方法について歴史教育実践を通じて追求していく予定です。なお本ブログの記事は、あくまでわたくし個人の意見であり、所属先の方針や考えを代表するものではありません。

3年生の卒論テーマ(大枠)の確定+α

 

今日の西洋近現代史ゼミで、3年生ゼミ生の卒論テーマの大枠がほぼ決まりました。年代順にいえば、以下の通りです。

 

フランス革命におけるパリ民衆の暴力について

・19世紀イギリスにおける労働者/労働問題について

・ウディ・ガスリー(1940~50年代に活躍した米フォークソンガー)の伝記研究

・冷戦初期におけるアメリカの東アジア政策と朝鮮戦争について

沖縄返還(交渉)をめぐるアメリカの諸政策について

 

今学期では、大枠テーマについての概説と研究史をフォローしてもらうことに集中してもらっています。『西洋近現代史研究入門』と各国の『研究入門』をベースに、冷戦史やフランス革命史など個別研究の蓄積が分厚い分野については、専門書の先行研究に関する記述にもあたらせています。具体的な論点・視点(卒論でいうサブタイトル)は夏期移行に探してもらうことになります。

 

なお、私の卒論指導では、特段語学力が優れているという条件がないかぎり、国際(関係)史や比較史の手法は基本的にとらせないようにしています。下手すると日本語で読める概説レベルの情報の寄せ集めで終わってしまう可能性があるからです。したがって、きちんとひとつの外国語(基本は英語)を軸にして、「タコツボ」のなかの一端でも垣間見てもらうことで、専門性を磨いてもらうことを主眼としています(※「タコツボ」から抜け出し、専門分野を越えて世界史を俯瞰する作業は、ゼミの「共同研究」で担保しています)。

 

今日のゼミでは、尊敬する西洋史家・上原専禄がかつてゼミ生に言ったらしい「このテーマをやらないと生きていけない、と思えるようなテーマをやりなさい」という言葉を使わせてもらいました。どう展開していくか、楽しみですね!

 

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I got surprise birthday presents -cakes and ZANPA PREMIUM- from senior students in my seminar yesterday! I was so happy~!  We shall overcome! 

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学術紹介「高大連携歴史教育研究会第2回大会に参加して―「歴史総合」をめぐって」

GWが終わり、研究を少しは進めることができたのですが、まだまだ未完成。この一週間死ぬ気で乗り切ります。

 

さて、私が所属する九州西洋史学会の最新号『西洋史学論集』第54号、2017年に、「学術紹介」として、「高大連携歴史教育研究会第2回大会に参加してー「歴史総合」をめぐってー」という小論を執筆しました。2016年7月31日に開催された、高大連携歴史教育研究会第2回大会(神戸大会)における登壇者の報告内容の紹介がメインです。したがって、私自身の分析等は一切ありませんが、こういう議論があるんだ、ということ自体をひろく知ってほしいと思っております。ご笑覧ください。

 

学術紹介『西洋史学論集』54号.pdf - Google ドライブ

 

この「高大連携歴史教育研究会」では会報編集委員長として仕事をさせていただいております。教科書執筆もなされている北海道の高校の先生から様々な知見や「世界史A」がたどってきた道について教えていただき、その二の舞を踏むまい、という気迫を共有させていただいております。十分な経験や技量をまだ持ち合わせていない私にできることは、とにかく「つなぐ」ことだと自覚しております。高校・大学・歴史学・教育学のあいだに厳然とそびえたつ壁を少しでも壊していければと思っています。

 

新年度スタート

4月14日から今年度の西洋近現代史ゼミがはじまりました!

4年次が6名(うち1名が海外滞在中)、3年次5名の計11名。卒論の指導を進めながら、また今年も共同研究「沖縄のなかの世界史発掘プロジェクト」をやってみるつもりです。テーマも大切ですが、現地に行くというフィールドワークを重視しているので「沖縄県内で訪問してみたい地域」という観点からも、自由に学生たちと意見交換する予定です。

 

さっそく、4年生からは「石垣!」という声が・・・。検索してみると、「唐人墓」という、19世紀中頃に英国船で殺された「苦力」(中国人労働者)を弔った史跡があるそうな。人頭税廃止の記念碑もあり、琉球王府による八重山侵攻という過去もあるので、八重山芸能研究会というサークルに入っているゼミ生もいるし、石垣島は重要な候補地ですね(私もまだ行ったことがないっ。)

 

他の候補としては第一に「ジェンダーと暴力」関連。近年、戦時性暴力についての書籍(とくにミュールホイザー『戦場の性』、洪=(=は「王へんに允」)伸『沖縄戦場の記憶と「慰安婦」』(今度書評を書かせていただくことになっています)、『沖縄県史 女性史編』が刊行されていますし、上間陽子先生『裸足で逃げる』で描かれている、女性に対する暴力と「貧困」の構造を現代認識のベースとしながら展開できないかな、とイメージ中。宮古島に「慰安婦」に関する石碑はあるとのこと。しかし、材料は多そうなだけにテーマ設定をしっかりしないと、ただの概説で終わってしまう可能性もあり。

 

第二に「ハンセン病」関連。北部の屋我地島の愛楽園や宮古島に県内のハンセン病の歴史を知ることができる資料館があり、ハワイ・モロカイ島の収容施設と献身的な活動を展開したダミアン神父についての歴史との比較とかもありかな、と考えているが、関連する学術論文が少ないのがネック。なお、写真は2015年2月にハワイ調査にいったときに撮影したダミアン神父像。

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第三に「當山久三」と沖縄移民の歴史。ハワイ、南洋群島、南米への移民の多い沖縄県において「移民の父」と言われている當山久三のライフヒストリーを世界史の視点で追ってみるのも面白そう。沖縄の古書店で、當山久三関係の書籍をこういうときのために収集中。「移民研究」は私の所属する専攻内に研究室がある地理学分野で研究が盛んなので、地理と歴史のコラボ、という可能性もあるかも。ただ、彼の出身地が金武町なので、フィールドワークに行くにあたって、「近場過ぎておもしろくない・・・」と思われてしまうかも・・・。

 

・・・他方、自分の仕事としては、7月末までに、5本の原稿を書かねばらないという、詰む一歩手前の状況ですが、学生たちからパワーを分けてもらいながら(吸い取っていく学生も若干いるが・・・)、「元気玉」を連発しつつ、ゼミ運営や自分の仕事を乗り切っていきたいと思います・・・。できるかなぁ。

 

『西洋史ゼミ論集』の発行

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西洋史研究室では、昨年度からゼミ論集の刊行を開始しました。

右側が昨年度の創刊号、左側が今年度の第2号です。卒業論文全文、卒論・就活体験記、ゼミ活動の紹介などを収録しています。特に第2号は、今度西洋史研究室に入ってくる予定の2年次生に一からすべて編集してもらいました。

 

さて、卒業論文を書くためには、色々考え方はあるとは思いますが、基本、以下の作業が必要になります。

・テーマの選定

・先行研究の整理

・文献、史資料の収集・読解

・論理的な説明、叙述

・オリジナリティのある結論の提示

 

大学の専門的知識は社会では役に立たない、とよく言われますが、たしかに「知識」そのものは活用されることはないかもしれません。しかし、上記の卒論執筆のプロセスを、企業での商品開発に当てはめてみるとどうでしょうか。

・テーマの選定 ⇒ 新商品に関する着想

・先行研究の整理 ⇒ 類似商品・関連商品に関する調査、ニーズに関する市場調査

・文献、史資料の収集・読解 ⇒ 新商品開発に必要な材料、資源、情報の確保

・論理的な説明、叙述 ⇒ 社内でのプレゼン資料の作成

・オリジナリティのある結論の提示 ⇒ 新商品開発のメリットを社内で説得

このように考えてみれば、西洋史学の卒業論文を書いて、企業に就職するというキャリアパスも十分にあり得るのではないでしょうか。むしろ、外国語文献を徹底的に読み込むので、企業マニュアル、各種取説の翻訳といった仕事でも貢献できるかもしれません。

 

そもそも、この学問は将来に役にたつのか?という疑問自体がナンセンスであり、学ぶ者が、「役に立たせよう」とするかどうか次第だともいえます。だからこそ、私は、就職に有利かどうかー役にたつかどうかーではなく(そもそも、そんかことは分かりようがない)、深く学びたいと思う学問を遠慮なく、思い切りやってほしいと思っています。

 

このゼミ論集に寄せてくれた、卒業生による卒論・就活体験記を読んで、本当に勇気づけられました。ぜひ、社会でも頑張ってほしいです。

 

・・・さて明日から、いよいよ新年度。

Guam, Gun Beach

先日のグアム調査の際に、デジカメの録画機能をつかって、宿泊地から徒歩15分くらいの「ガン・ビーチ」を録画しました。

 

ブログに、各種ファイルをアップロードする技術を習得したつもりですので、試しに活用してみようということで、さっそく張り付けてみました。うまくいくかな・・・。1分程度の動画です。今後はこういうのも、授業スライドに入れ込みながら、展開できればと思っています。

Guam, Gun Beach, 2017.2.28.AVI - Google ドライブ

 

 

 

2016年度西洋史研究報告会

2月22日、23日の二日間にかけて、大学内で「西洋史研究報告会」を開催しました。専攻の公式行事の卒論報告は一人5分で質疑なし、ですので、せっかくの作品をちゃんと披露する機会を設けようと、もう一人の同僚の西洋史の先生と相談し、企画したものです。そこでメインの4年生は、報告1時間・質疑1時間という時間をとって、じっくり議論しました。

 

続けて、3年生の卒論進捗状況、2年生の関心あるテーマなどの議論もつづき、「耳学問」の大切さも感じえてもらえたのではないか、と思います。ただ、この時期は集中講義、インターンシップ、教員セミナー等のイベント事もおおく、すべての西洋史学生が参加なかったのが残念でした。今の学生は、僕らの頃より忙しくなっているのは確かですね・・・。今年は諸事情でバタついたので、より計画的な企画が必要。

 

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大北口あたりの寒緋桜。1~2月は桜の季節。

 

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打ち上げの様子。お疲れ様でした!

The Last Lecture on 18, February, 2017

今日は、おなじ歴史学コースの同僚である山里純一先生(ふだんは固有名詞は極力明記しないようにしていますが、今回は特別編です)の最終講義および退職記念パーティーが開催されました。

 

山里先生は、①日本古代財政史研究、②古代南島関係史研究、③まじない習俗の研究の3つの柱から研究を進めてこられ、近著で本日ご恵贈いただいた『沖縄のまじない』(ボーダーインク、2016年)を含めて計6冊の単著を世に問うてこられました。正倉院関連文書の読み解きから、木簡研究、呪符や石敢當研究へ至り、これからは星や風と沖縄習俗との関係を歴史民俗学的手法でさらに研究を進められるという決意を、最終講義で分かりやすく、お話ししてくださりました。最後には、「星」に関連のある、八重山民謡を三線とともに唄っていただく、という豪華な演出を披露してくださいました。退職パーティーでは、長らく山里先生が顧問をつとめられた八重山芸能研究会による演奏が、会に花を添えてくださいました(そのうち1名は今後の私のゼミ生!)。

 

私個人との関係については、たった2年間ではございましたが、これまで先生が沖縄で日本古代史を研究する意味を模索してこられた34年間の蓄積を引き継ぎ、巨人の肩に乗る小人のように、微力ながらも沖縄で西洋史を研究する意味について同じく模索していきたいと決意新たにした次第です。

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